ブロークバック・マウンテン 雑感

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以前「ノクターナル・アニマルズ」を見て、ジェイク・ギレンホールの演技が好きだったので、彼の代表作の一つである「ブロークバック・マウンテン」も見てみました。

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壮大で美しいブロークバック・マウンテンの農牧場で出会った二人の青年。山でのキャンプ生活の中で、次第に彼らは友情を超えた深い感情が芽生えはじめるのだったが…。『シッピング・ニュース』のアニー・プルーの短編小説を原作に、20年にもわたる男同士の愛の物語を綴ったアン・リー監督の傑作ドラマ。第63回ゴールデン・グローブ賞にて主要4部門を独占受賞、第78回アカデミー賞では監督賞など3部門を受賞。

「Oricon」データベースより

数々の賞を受賞した同性愛を描いた映画

「ブロークバック・マウンテン」といえばジェイク・ギレンホールとヒース・レジャーが演じる2人のカウボーイの男性同士の恋愛を描いて話題になり、数々の賞を受賞した「名作」に挙げられる映画です。
今まで名前は聞いたことがありましたが、あらすじだけだとシンプルな恋愛映画のようだったので見ないままにしていました。
が、今回本作を見てみて、映像の美しさ、二人の男優とミシェル・ウィリアムズの演技の巧さには本当に感心させられました。

美しいブロークバック・マウンテンの自然

ジャック(ジェイク・ギレンホール)とイニス(ヒース・レジャー)の絡みが有名ですが、本作の一番の見所はまず舞台となるブロークバック・マウンテンの美しさだと思います。
山や渓谷の風景、時に厳しい天候、移りゆく季節、全てが素晴らしい映像として収められています。
この映画を見ながら、河瀬直美監督の「萌の朱雀」を思い出しました。
こちらも、日本の山を非常に美しく撮っている、好きな作品です。

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ジャックとイニスにはふたりとも妻子があり、街や牧場で暮らしていますが、二人だけでブロークバック・マウンテンに行くときだけは現世を忘れて美しい空間で過ごすことができました。
ぎこちない出会いや衝動的な行為、喧嘩や和解などなど、二人は20年間カップルとして様々な感情をぶつけ合いますが、自然は常に変わらず美しく佇んでいて、その対比がとても良かったです。

語られない物語の想像

本作ではあまり解説するような描写はなかったのですが、こうじゃないかなと思わせるようなポイントがあったのでいくつか書いてみます。

ゲイの男性とストレートの男性の恋愛の物語

まず、おそらくジャックは元々ゲイである(男性が恋愛対象である)ということを自覚している人間で、イニスの方はストレート(異性が恋愛対象である)という点。
イニスの方は元々婚約者がいるのでストレートだったと思いますが、ジャックは登場シーンの車にもたれる動きや、髭を剃りながらミラー越しにイニスを盗み見しているところから、元々ゲイだったような描かれ方になっています。

最初にあのもたれ方を見て「ジャック、なんかキモくないか?」とめちゃくちゃ違和感があったのですが、そういう演技だったんだなと後で納得しました。
※ちなみに「気持ち悪い」と感じたのはゲイだからというわけではなく、最初からどことなく性的なものを含んだ動きをしているからですね。ジェイク・ギレンホールのそういう細かい演技、とても好きです(笑)

また最初の年の仕事が終わり、ジャックとイニスが一旦別れるシーンで、ジャックは寂しそうにしながらも車で去っていくのに対し、イニスはしばらく歩いた後に嘔吐をこらえるような仕草で嗚咽し、壁を殴りつけます。
このシーンも、イニス(ストレートの男性)にとって男性との恋愛がどれだけ衝撃だったかを表しているように思いました。

二人は互いに恋愛感情を持っているので、本来は元々ゲイとか元々ストレートとかそういうふうに分ける必要はないと思います。
ただストーリー全体で見ると、この立ち位置の微妙な違いが結構ポイントになっていたんだなと思います。

再開後のキス

立ち位置の違いがわかるのは、例えば数年後にイニスの家をジャックが訪ねてきて、再会した二人がその場で熱烈なキスをし始めたシーンです。
どこか別の場所で会うのかと思いきや、イニスの家に訪ねてきていきなりその場で抱き合ってキスをし始める二人。すぐそこに奥さんもいるのに何をしてんねんと、思わず呆れました。

実際にここでイニスの妻のアルマ(ミシェル・ウィリアムズ)にばっちりキスシーンを見られるわけですが、この時のアルマの表情・動揺の演技は真に迫っていてとても良かったです。

多分、元々ストレートのイニスはこの時まだ二人の恋愛感情を甘く見ていて、「あれは一度の過ちだから普通に会えるだろう」とか「お互い好きでも自制できるはず」などと思っていたのだと思います。
ここがまたジャックとイニスのすれ違いなのですね。
ジャックの方は完全に感情を自覚しているのでもう会ったそばから全開で、イニスにしても本心ではジャックを恋愛感情で好きなので、激情に流されてその場で熱烈にキスをしてしまう、、という感じだったのかなと思います。

ちなみにこの時の最初からグイグイいく感じのジェイク・ギレンホールの表情は、彼の気持ちが伝わってきてとても好きでした。
が、とにかくここは妻のアルマが不憫でならないシーンでした。
これが浮気相手の女だったら完全に怒って二人に怒鳴りつけていたかもしれませんが、親友とされている男性なので「まさか」とか「自分との結婚は嘘なのか」とか、混乱してしまって何もいえず、二人を見送るしかないという。。

ジャックの浮気相手

ジャックは終盤で、「妻の他にも牧場主任の妻にも手を出している」とイニスに告白します。(実際には牧場主任の男との浮気だったことが後からわかるわけですが)
女と浮気していると聞いてもイニスはあまり気にしませんが、メキシコに男を買いに行ったというと激高してジャックを詰ります。
このあたりもイニスにとっては男が女に手を出すのは当たり前だから許せるけど、男相手の恋愛は自分との特別なものだから許せない、みたいな感じなのかなあと。

イニスのトラウマ

イニスはイニスで、小さい頃のゲイの男性の死体(ストレートの男性にからかい半分で惨殺されたやつ)を強制的に見せられているので、ゲイは殺されるというトラウマをもっています。
そのあたりでゲイの恋愛を認められないというか、世間にはぜっったいにバレてはいけない、バレたら殺される!という強迫観念があるのですね。
ゲイを理由に惨殺されるというのは昔観た「ボーイズ・ドント・クライ」という別な映画でも出ていました。
今の時代の日本の間隔からすると結構衝撃ですが、宗教観・地域観から「ゲイならそうされてもしょうがない」と思われていた時代もあったのでしょうね。。

自分の気持なのに認めてはいけないと思い続けて、それでもジャックのことは好きでという葛藤を抱えたまま年を取り、ブロークバック・マウンテンでついに泣き崩れる中年のイニスの悲哀は本当に深いものがありました。

ジェイク・ギレンホールの演技が細かい動きにも気を配って作られるものだとすると、ヒース・レジャーの演技は身体からにじみ出るようなものだなと思います。イニスが泣き崩れるシーンで感じる彼の葛藤や哀しみは言葉では言い表せませんが、ヒース・レジャーの演技が心に染み入るようで、本当に素晴らしかったです。

ジャックの不審な死

そのあとジャックはパンク修理中の事故で亡くなり、イニスはジャックの妻・ラリーンから電話でそれを聞かされます。
話を聞いたイニスは、昔のトラウマから「ジャックはゲイであることを理由に殺されたのだ」と思い、打ちのめされます。
ラリーンの話を信じるならそのまま事故死ですが、私もジャックは殺されたのかなあとなんとなく思いました。
ラリーンがそこまで悲しくなさそうだったことや、イニスへの話す態度から、ラリーンはこの電話の時点で二人の関係を知っていたような気がします。
でもゲイを理由に殺されたなんというのはやはり辛すぎるので、やはり事故のままにしておきたいですね。。

最後の「I swear」

映画の最後は、イニスがジャックの遺品に向かって「I swear…」と言って終わりますが、字幕では「ジャック、永遠に一緒だ」みたいな感じになっていたので、結構違和感がありました。
いきなりわかりやすい恋愛映画みたいな台詞じゃない?と。
ただ、直訳すると「誓うよ」になりますが、何に誓うのかはわからないし、翻訳の方も悩まれたのではないかと思います。

シーンとしては直前に娘の結婚式の話をしていたので、イニスはジャックに、結婚式での「誓います」に近いものを伝えたかったのでしょうね。
「誓う」ということは神または世間に宣誓するということですよね。
今まで自分の気持ちを肯定できなかったイニスが、初めてポジティブに想いを伝え、また世間にも(公にはしないにせよ)気持ちを現した一言だったのでしょう。

いろいろ推察させるような演出が多く、観た後もふと思い出しては「もしかしたらああだったのかも…」と思うことが多い映画でした。
名作と言われる所以はそういうところにあるのかもしれません。

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