
東京でちょっと空き時間があると歌舞伎を観ることにしていて、今回も合間に歌舞伎座の一幕見席で「寺子屋」を観てきました。
映画より安い歌舞伎座の一幕見席
一幕見席は歌舞伎を一幕だけ(通常3幕あるうちの一つだけ)を観るための席で、歌舞伎座は4階に専用席が用意されており、当日の決まった時間に先着順で購入できます。
意外に知られていない一幕見席ですが、大体1000〜2000円と映画を観るような感覚で歌舞伎を覗けるのでとってもお得。
今回の「寺子屋」は1600円でした。
七之助丈の美、勘九郎丈の葛藤、仁左衛門上の貫禄、玉三郎丈の哀しさ
「寺子屋」は「菅原伝授手習鑑」の一幕で、勘九郎丈演じる武部源蔵という寺子屋を営む武士が、匿っている主の子どもの首を差し出さなくてはいけない事態になり、今日から寺子屋に来ていた少年を身代わりに斬り殺し、仁左衛門丈演じる松王丸の首実検を受ける。その場はなんとか切り抜けるが、実はこの身代わりは事前に計画されていて…という悲劇と人情のお話。
武部源蔵の妻・戸波を七之助丈が演じ、身代わりの少年の母を玉三郎丈が務めます。
まず目につくのは七之助丈の美しさ。年々美しさが増しているというか、今回は夫を支えつつ、寺子屋の子どもたちのことも大事に想っているおかみさんぶり、そしてその中の子どもを殺さねばならないと知った時の苦しさが、美しく現されていました。
勘九郎丈の武部源蔵も、忠義と無実の子どもを殺さねばならない無念さ、いざとなればその母も口封じに殺さなければという決意と、でもそうはしたくないという温かさ、色々な葛藤が却って潔くでていたように思います。
仁左衛門丈の松王丸はさすがの貫禄で、主君を敵と偽り、自らの子どもの首を正視して首実検をするなど非常な場面を忠義でしのぐ男らしさが素晴らしく、一層悲しみを感じる場面となりました。
観客からの拍手が一番だったのはさすがの玉三郎丈。身代わりの少年の母であり、松王丸の女房・千代を気品があり、非常な哀しみを背負いながら、夫とともに忠義に生きていく女性として演じていました。
ストーリー自体も深みがあり、かつ演者も豪華な大満足の「寺子屋」一幕見でした。