[秋の東京2017]九代目・松本幸四郎最後の大石内蔵助@吉例顔見世大歌舞伎千秋楽

出張二日目も仕事を終えた後はいそいそと観劇へ。
東銀座の歌舞伎座で吉例顔見世大歌舞伎の千秋楽・夜の部へ伺いました。

九代目・松本幸四郎最後の舞台

千秋楽に伺うことになったのはたまたまでしたが、よく考えてみれば九代目・松本幸四郎、そして七代目市川染五郎としての最後の舞台なのでした。
運良くチケットが入手できて良かったです。

しかも演目が「大石最後の一日」。
いかにも幸四郎さんにふさわしい演目だと思います。

 

この「大石最後の一日」は昭和の劇作家・真山青果によって書かれた「元禄忠臣蔵」の最後の一幕。実際には一番最初に上演されたのが「大石最後の一日」なので、「元禄忠臣蔵」の核となる物語と言って良いかと思います。

演目自体初めて見るものだったのですが、見ているうちにこの大石内蔵助は幸四郎さん以外にはない役だと思いました。
というのも、こちらは比較的新しい演目なので、台詞回しなどがすこし現代劇に近いところがあるのです。
歌舞伎らしいキメはないのですが、かと言って軽い内容ではないので、重さや覚悟を決めた潔さは芝居で表現しなければなりません。そのぶん難しい演目なのではないかなと思います。

幸四郎さんといえば歌舞伎以外でも「ラマンチャの男」など現代劇でも非常に高名な方ですので、そのような現代劇で培った間が十分生かされ、初心を貫く大石の貫禄、そして覚悟を決めた潔さなどが非常によく伝わってきました。
歌舞伎の幸四郎さんと舞台の幸四郎さんを一気に味わえたような、なんというかある意味オトク感のある演目でした。

しかし逆に幸四郎さん以外の方がこの大石をどう演じるのか、またこれも興味があります。

花道に引き戻す異例のカーテンコール

演目の最後は幸四郎演じる大石内蔵助が、自身の切腹の間へと悠然と歩んでゆくシーンで終わります。
その去り際がなんとも素晴らしく、また最後の舞台にふさわしいものだったので、幕が下りてからもしばらく拍手を続けてしまいました。
会場全体からも拍手が収まらず、また大向うの方の声も止まなかったこともあり、なんと幸四郎さんが花道から戻ってくるという異例の事態に。

幸四郎さんに続いて、染五郎さん、金太郎さんもでてこられ、お礼と来年の襲名に向けての抱負などを語ってくださいました。
そして「歌舞伎にカーテンコールはないんでございます」とおっしゃりながら、手締めで場をきっちりと締めてくださったところはまさに松本白鸚としての貫禄を感じさせるものでした。

舞台と観客の在り方

このカーテンコールについては、私自身は幸四郎さんや染五郎さん、金太郎さんが出てきてくださったことに大変ありがたいと感じています。
しかし後日、死装束で覚悟を持って歩んでいったものを引き戻すのはあまり良いとは思えないという意見もお見かけしました。
確かにそういう面もあるなと思い、なかなか考えさせられました。

ただでさえ今の歌舞伎は、客席にもある程度の知識と弁えを求められる世界だと思います。役者の芝居だけでなく、大向うさんの掛け声も演目の良し悪しに影響してきますし、女性は大向うをするべきでないという暗黙のルールもあります。(この女性NG自体にも考えを改めるべきところはあると思いますが)
西洋的な舞台に比べて、役者と観客の曖昧な(しかし実はしっかり決められている)距離感・雰囲気を守って楽しむというという面が強いので、観客にもわきまえが必要になってくるのでしょう。
そのような面では、観客が思うままに振る舞って良いものではなく、常に「この舞台にとって観客としてどのような態度が良いのか」を考えなければならないと思いました。

ただ、今回に限っては現代劇での功績も高い幸四郎さんだからこそ観客もこのような事をしたのだと思いますし、幸四郎さんだからこそ気持ちを切り替え、余裕を持って舞台を締めることが出来たのだと思います。
ある意味では高麗屋さんらしい出来事といえるのではないかと思いました。

だからといってこのカーテンコールもどきが毎回続くようになってしまうのは良くないという気持ちもわかりますので、きっとこれきりになるのが良いのでしょうが。。。

舞台と観客の在り方というのはいつも正解が出るものではなく、ほんの時々、色々な偶然が重なって素晴らしい瞬間が訪れるものだと思います。
今回はその珍しい瞬間に立ち会うことができ、私にとっては大変素敵な観劇となりました。

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