• ランニング・マン雑感

    2026年の初映画はエドガー・ライト監督の『ランニング・マン』

    エドガー・ライト監督の演出が好きなので楽しみにしていた本作。なぜか世界公開から3ヶ月ほど遅れて日本でも公開になったので鑑賞。
    ※単なる感想なので映画のネタバレはありません

    直後の感想としては、劇中ではグレン・パウエルがめちゃくちゃ頑張ってたけど、その印象が全部飛んでくほどエンドロールに持っていかれている。
    エドガー・ライト監督、おしゃれすぎる。
    全部そのセンスで作ってくれたら良かったのに、というのが今の感想。

    スティーブン・キングの原作&アーノルド・シュワルツェネッガーの過去作(『バトルランナー』)という意識のせいなのか、序盤が重めでライト監督らしくなく、やや入りづらい印象。
    あとスラムに暮らすグレン・パウエルって結構浮いている。
    グレン・パウエルはいい役者さんだと思うし毎回身体作りもすごいなと思うけど、本人の性質なのか形質なのか、汚い役とか悪い役になると浮いちゃうなあと思う。
    コメディとかちょっとエリートっぽい役とかは似合うんだけど。
    あとトップガンマーヴェリックのハングマンみたいな皮肉っぽい役とか。

    エドガー・ライト監督とグレン・パウエルが組むならもっと軽快でテンポの良い感じのものが良かったんじゃないかなあと思ったり。

    ただ、もちろん技術はすばらしいお二人なので、見ているうちにきちんと物語の中に引き込んでくれるし、アクションもセットも素晴らしく、ディストピアな世界観も良かったし、脇役のみなさんもちゃんとキャラが立ってていい感じ。
    原作の関係もあり、ちょいちょい80年代ぽい風味をおしゃれに入れてくるのがライト監督ぽくて好き。

    今回もケイティ・オブライアンが出てたけど、ちょっとの出演時間でめちゃくちゃ存在感を出してくるケイティ、さすが。ジョシュ・ブローリンも良かった!

    あとタイミング的に劇中の超管理社会のあり方が昨今のICE騒動とかなり重なっていて、もしアメリカでの公開が今だったらかなり賛否両論になっていたのかも、と思ったり。

    公的機関は、社会の害になるものから人々の安全な暮らしを守っているのか、それとも正義の名のもとに、底辺にいるしかない人間の命を軽んじているのか。
    自分がどこに属しているか、誰と付き合っているかでその印象はまるで違ったものになるということがこの映画の中でも描かれていて、そのなかで自分はどの立ち位置にいたいのかということを考えさせられる。

    ディープフェイクの悪用、メディアの扇動、民衆の徹底監視などなど、ディストピア社会で描かれていることがだんだん現実社会でも『機能的には』可能になってきたなあ…というところを見せつけられてちょっと苦しくなるところも。
    ただし、それに反抗する人々もまたいるんだということを、ごくごく日常的に、そして軽快なユーモアで表現するのがライト監督らしいところ。

    終盤の盛り上がりもいいし、エンドロールは個人的にあと何回か見たいくらい好きだったので、序盤の重たさだけもうちょっとライト監督らしくいってたら良かったんじゃないかなあ…と思うけれど、まあ初見の感想なのでまた見たら印象が変わるかも。
    『ベン・リチャーズとはこういう男』という前提を持っていれば見方が変わるのかもしれない。

    ,
  • 火星の人

    機内で『火星の人(the Martian)』を読んでから、ちょうど機内のエンタテインメントにあった映画版を鑑賞。

    小説は期待に違わずめちゃくちゃ面白かった。先に『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んでいたからというのもあるけど、アンディ・ウィアーのこの手の小説(宇宙で脳天気な天才が孤軍奮闘する系)はあと10冊くらい読みたい。
    火星の人はネット小説で公開されていたということもあり、日本語訳でもそんな感じでとてもカジュアルな読ませ方をさせてくれる。

    主人公がやっていることは非常に高度なのに、すべての理屈がわからなくても面白く読ませてくれるのは、この柔らかさと主人公の能天気さのおかげ。
    世界にただ一人で生きて、しかも刻々と死に向かっている状態で、こんなに葛藤しない(葛藤をみせない)主人公は本当に珍しい。サイコパスといってもいいんじゃないかというほど情緒に欠けていて、通常だとそれは「人間の内面が書けていない」とか「浅い」とかいわれそうななか、プロットの面白さで気にせず読ませていくのは本当にお見事。

    映画は、その主人公のとぼけたところがマット・デイモンによくあっていてとても良かった。もう少し若く、タロン・エガートンも合うような気がする。日本語の声優さんはマット・デイモンのイメージよりやわらかい声で少し違和感があったものの、主人公のマークにはとてもあっている演技だった。

    小説を読んでからすぐ映画を見たので、これがMAVか〜(想像よりだいぶ小さかった)とか、ハブはこうなってるんだな〜(想像よりもだいぶ立派だった)とか、想像と正解のギャップが楽しい。

    ストーリーはだいぶ省いてあったので、小説を読んでからだと試行錯誤や盛り上がりにかける印象で、映画としての山谷はこれで十分なのか、小説を読んでいるから気になるだけで十分成立しているのか、ちょっと判断がつかない。
    でも映画の画の美しさはとても素晴らしかった。

    ,
  • さらば、わが愛/覇王別姫 雑感

    チェン・カイコー監督の「さらば、わが愛/覇王別姫」が4Kリマスターで劇場公開していたので、ポスターのビジュアルに惹かれて見てきた。
    特に前情報無しに見に行ったのだけど、3時間近い長尺で怒涛の中国の歴史的変遷とともに京劇を通して男女3人の愛憎が描かれるすごい映画だった。

    京劇の俳優養成所で兄弟のように互いを支え合い、厳しい稽古に耐えてきた2人の少年――成長した彼らは、
    程蝶衣(チョン・ティエイー)と段小樓(トァン・シャオロウ)として人気の演目「覇王別姫」を演じるスターに。女形の蝶衣は覇王を演じる小樓に秘かに思いを寄せていたが、小樓は娼婦の菊仙(チューシェン)と結婚してしまう。
    やがて彼らは激動の時代にのまれ、苛酷な運命に翻弄されていく…。

    https://cinemakadokawa.jp/hbk4k/

    さらば、わが愛 覇王別姫 角川シネマコレクション

    最初は京劇役者の小樓と蝶衣という男性二人の報われない愛憎的な話なのかなと思っていたのだけど、見てみると全然そんなこともなく、むしろ恋愛というつながりでくくれるものでもなく、小樓と蝶衣、そして小樓の妻になる菊仙という、三人の男女の波乱の人生の絡み合いがものすごかった。

    以下、ネタバレ。

    続きを読む
    ,
  • プロジェクト・ヘイル・メアリー 雑感

    Twitterで評判が良さそうだったので読んでみたもの。

    宇宙船に一人で目が覚めた地球人が、地球を救うために試行錯誤し、なんと宇宙人とのコミュニケーションまで取って一緒に問題解決してしまうという、あらすじだけ聞くと「そんなことできんの!?」という感じのストーリーではあるんだけど、主人公の科学者としての姿勢と知性とすっとぼけたユーモアでそこらへんの説得力を持たせている。

    まともな人間は宇宙人にロッキーと名付け、更に彼の妻たる名前をエイドリアンとしたりはしないんじゃないだろうか。
    まあ宇宙船の一部の名前もビートルズだから、科学者的にはそんなもんなのかもしれない。

    いろんなリスクに直面しながら地球人と異星人がそれぞれ自分の星が生き残るために協力して解決していくというストーリーで、「次に起こる問題はなに!?」と気を揉みながらも、それほどのストレスはなく、すいすい読める。
    あんまり感情に起因するネガティブなことがないし、それでいて課題解決までの時間は限られてるので、立ち止まらずに読めるんですね。
    多分それは主人公と異星人の善性と孤独の凄まじさによるものだと思う。

    なんかこう、ふたりともものすごくえらい。がんばってる。
    ここから何光年も離れて、もう存在もわからない、今すでに破滅しかかってるかもしれない地球と異星人の星を救うために。
    一人の地球人と、一人の異星人だけで。

    普通、そんな事できる?と思ってしまうくらいに人がいい。
    そんなことしなくても、快適な宇宙船のなかで死ぬまでゆっくり過ごせばいいのに。

    それでも彼らは協業し、科学し、工作し、チャレンジし、達成する。
    ときには互いの星のために自分の命を投げうったりもする。


    ふたりとも、とても善い性質でえらいなあと思うし、同時に、そうしなければやっていられないほど孤独で寂しい状態なんだろうなとも思う。
    地球人は一人だったら狂ってたと思うし、異星人に会えて、しかもその異星人が善い性質だったから、結果的に互いの善性を高めあって協力できたということなんでしょうね。
    あと地球人と異星人という異文化すぎる二人なので、そのギャップが大きすぎて文化的衝突が起こらない(そういうもんかと受け入れるしかない)というのもいいんだと思う。
    とてもいいコンビ。

    あと地球人の主人公がこんなに善い性質なのは、もしかしたら人工的に操作されてる可能性もあるのかなあと思ったり。
    宇宙船に乗せる前にマインドコントロールしたり、やり方は色々ありそうなので、プロジェクトを成功させやすい偽の人格、偽の記憶を与えられている可能性もあるんじゃないかな。

    物語のラストで、地球人は地球に帰ることなく、それでも充実した余生を送っている。
    彼がプロジェクト・ヘイル・メアリーに関わる前と(環境は違うけども)同じような生活を取り戻している。

    地球は星としては助かったけれど、そこに暮らす地球人がどんな状態かはわからない。
    何億人かを失いながらも再建できているのか、それとも残ったパイを奪い合って数を減らしているのか、もしくはもういないのか。
    異星人たちは地球の情報をきちんと彼に伝えているのかも謎ですが。(彼に希望を与えたくて「地球が前の状態に戻った」と伝えただけの可能性もあるし)

    もし地球に人が残っていたとしても彼らは大きな混乱の中にいるわけで、
    彼だけが唯一、地球にはいないけれど人生を取り戻しているというのは、やっぱりその善性の応報なんでしょうかね。

    もし彼が宇宙にたった一人だけ残った地球人だったとしても、彼が幸せに生き、そして死んでも彼の子どもたち(教え子たち)が生き続けていくということで、いいエンドだと思う。

    プロジェクト・ヘイル・メアリー(上)
    プロジェクト・ヘイル・メアリー(下)

    ,